ファクタリングと混同されがちな【売掛債権担保融資保証制度/略称:売債】は、国が推奨する金融制度の1つです。つまりファクタリングと売掛債権担保融資保証制度は似たものですが、実際は異なります。
2001年の中小企業信用保険法改正により創設された制度で、2007年には更に拡充して【流動資産担保融資保証制度/略称:ABL保証】として適用されています。
しかしこの制度は、ファクタリング本来の役割である【売掛債権の売却による資金調達】とは大きく利用用途が異なるのです。
ファクタリングと売掛債権担保融資保証制度の違いは何?
ファクタリングと売債の違いは【売掛債権の資金化の有無】です。ファクタリングは、売掛債権を売却して資金調達を行ないます。
対して売債は、売掛債権を担保にした融資を受ける際の保証制度を指しているのです。
ここを勘違いしてしまう人がいますので、改めて確認しておきましょう。
ファクタリングのメリットとデメリット
売掛債権をモノとして扱い、第三者であるファクタリング会社に売却して資金調達を行なうのがファクタリングです。
資金調達の手段として近年注目を集めている金策で、特に中小零細企業の経営者から支持を集めています。
しかし、そんなファクタリングにもメリットとデメリットが存在します。
ファクタリングのメリットは主に6つです。
- 資金調達までの時間が速い
最短で申し込んだ当日中に資金調達が可能です。 - 審査対象が売掛先である
融資であれば申込者の財務状況を審査されますが、ファクタリングは売掛先の財務状況が審査対象になります。 - 保証人や担保が不要である
融資では無い為、保証人や担保などが必要ありません。 - 債権売却後の回収義務が無い
契約内容に【償還請求権無し】とあれば、万が一売掛先から入金されなくとも申込者に債権回収の義務は発生しないのです。 - 信用情報に影響しない
売却益が資金になる為、与信情報に影響しません。 - 財務状況の改善が図れる
入金サイクルを健全化する事で、自社の黒字倒産を防げます。
2社間ファクタリングと3社間ファクタリングという手法によってメリットが若干異なりますが、基本的にはこれらのメリットが享受できるのです。
参照 2社間ファクタリング・ 3社間ファクタリング
スピーディーな資金調達を可能にするファクタリングですが、そこにはデメリットも存在します。
- 手数料が掛かる
売掛債権額に対する割合手数料が発生します。 - 債権譲渡登記が必要な場合もある
債権額が高額になればなるほど債権譲渡登記を求められ、登記そのものに数万円の手数料を法務局に納めなくてはいけません。 - 取引先との関係が悪化する可能性がある
売掛先との信頼関係が構築しきれていない場合は、将来的に取引縮小や取引の解消に繋がる可能性もあります。
メリットとデメリットを踏まえて、適切にファクタリングの活用を検討が必要です。
売掛債権担保融資保証制度のメリットとデメリット
売債は2007年からABL保証に拡充されています。ABL保証を含めたメリットとデメリットをまとめていきます。
ABL保証のメリットは主に3つです。
- 売掛債権と棚卸資産を担保に融資を受けられる
自社に不動産担保が無い場合、売掛債権と棚卸資産を担保にできる為、資金調達方法そのものが増える事になります。 - 資金確保がしやすくなる
不動産の担保価値が低い場合や保証人がいない場合でも融資による資金確保が可能です。 - 資金調達限度額の拡大が図れる
不動産・保証人融資の上限額を、売掛債権と棚卸資産を担保にする事で更なる拡充が図れます。
対するデメリットです。
- 審査によっては融資が受けられない
いくら国が推奨していても、財務状況が悪ければリスクが高いと判断され制度の対象外になってしまいます。 - 信用力が取引先に疑われる
ABL保証はあまり知られていない金策である為、取引先によっては自社の資金繰りを懸念されてしまうのです。 - 融資である為返済義務が生じる
ファクタリングと違い融資である為、将来的に負債になる可能性があります。
資金調達額はファクタリングよりも高いですが、デメリットでもある【審査】の結果如何で制度を受けられない可能性もあるのです。
ファクタリングとABL保証の比較
資金調達のプロセスが異なるファクタリングとABL保証を比較して行きます。
比較項目 | ファクタリング | ABL保証 |
---|---|---|
資金化までのスピード | 最短即日 | 1ヶ月以上かかる場合もある |
審査対象 | 売掛先の財務状況 | 売掛先の財務状況+売掛元の財務状況 |
保証人/担保 | 不要 | 保証人は不要/売掛債権と棚卸資産が担保対象 |
資金調達額 | 少額から1億円程度まで ※ファクタリング会社で異なる | 法律上2億円まで |
ファクタリングは売却益、ABL保証は融資である為、将来的な負債になるかならないかという点も違いの1つです。
ファクタリングが向いている or ABL保証が向いている?
資金調達方法を選ぶ際、自社の状況に応じて金策を使い分ける事も重要なポイントです。自社の財務状況に応じて使い分ける事で効率的な資金調達が可能になります。
ファクタリング向きの業種と状況
ファクタリングのメリットやデメリットを踏まえると、ファクタリングに向いている業種や状況が見えてきます。
医療・福祉業界の突発的な支出
売掛取引を常に行なっている業種の代表格が【医療・福祉】です。医療・福祉業界は健康保険組合が売掛先になります。窓口で支払われているお金は診察費の3割です。
健康保険組合から残りの7割が支払われるのは、基本的に診察日から3ヶ月後になります。その為、高額な機器の故障やイレギュラーな支出には預金で支払わなくてはなりません。
しかし、町レベルの診療所や訪問型デイケアのような小規模の事業所では、高額な支出に対応できないケースがほとんどです。医療・福祉業界のファクタリングは、売掛先が健康保険組合である為、貸し倒れリスクがありません。手数料も民間会社同士のファクタリングより安く済みます。
建設業界の経費支払い時
建設業界には、請負った仕事の経費を前払いするという慣例があります。特に大きいのが人件費と材料費です。工事の規模によっては数千万円の前払いが発生します。
資金力が無い建設会社の場合、仕事を受注しても前払い経費が支払えずに受注キャンセルになるケースもあるのです。しかも、入札工事となると事前に融資相談がしづらい為、資金確保が難しいという事も挙げられます。
3社間ファクタリングであれば手数料も安く済みますし、受注先が官公庁など信頼の置ける所であれば、審査時間もそう掛からずに資金調達が可能です。
ABL保証向きの業種と状況
ABL保証の本質は融資です。
資金調達額の規模が大きい事と、資金調達までの時間が長い為、計画的な運用が必要となります。
設備投資を考えている製造業など
製造業の使う大型機器などは高額なものがほとんどです。投資する事で生産性の向上も見込めますし、確定申告時に有利に働きます。
中小零細企業の製造業は、原材料費の高騰などがあると資金繰りが大変です。ABL保証を利用する事で高額な設備投資も可能になります。
小売業・卸売業の資金確保
棚卸在庫を担保にできるABL保証は、小売業や卸売業の資金確保にも向いています。小売業や卸売業の売上は、流行などの需要によってめまぐるしく変化するのが常識です。
せっかく仕入れた商品が売れ残ってしまうと、その分の負債を抱える事に繋がります。ABL保証は棚卸在庫を担保にできる為、売れ残った商品を担保にして新たな仕入れ用の資金を調達できます。
注意したいのは、棚卸資産の価値です。売れ残りの商品は担保価値が大きく下がります。その事を踏まえてABL保証を検討してください。
資金調達方法の使い分けで効率的な資金運用をしよう
ファクタリングもABL保証も、使い方次第では資金繰りを改善させる最良の一手になり得ます。
使い方を間違えると、自社の利益を目減りさせる事にも繋がります。
それぞれの特徴やメリット・デメリットを把握して、効率的な資金運用を心がけてください。