ファクタリングを制限する「債権譲渡禁止特約」は、企業にとってもファクタリング業者にとっても資金調達のブレーキになっていました。
2017年5月に債権法が改正され、2020年4月から法律が施行されることを受け、ファクタリング参入業者が増加傾向にあります。
これまであまり認知度が高くなかったファクタリング取引。金融関係の企業を中心に、にわかに活気づいていることも事実です。債権法が改正されたことでファクタリング参入業者が増えた理由や、今後の課題とは一体何なのでしょうか。
債権法とは?
正確には債権法という名前の法律はありません。ここでいう債権法とは、民法の中の「契約等に関する最も基本的なルール」の部分のことです。法務省が発行した民法改正のパンフレットにも「債権法」」という文字が書いてあります。
では、この債権法改正とは一体何が変わったのでしょうか。そして従来のファクタリング取引に与える影響とは何なのでしょうか。
改正点はここ!
改正前の条文は以下です。
1、債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2、前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
改正後が以下です。
1、債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2、当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3、前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4、前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。
引用元:民法466条Wikibooks:URL:民法第466条
2項以下から変更と追加がされています。ファクタリング取引の内容に大きな影響を与えるのが、この変更+追加になった部分です。
ファクタリング取引に与える影響~第2項の変更から追加部分
変更になった第2項では、ファクタリング取引のブレーキになっていた「債権譲渡禁止特約」が定められていても債権譲渡が成立するという部分が、ファクタリング業界の追い風になると期待されています。
そして第3項では、第2項を補足する形で追加された法律です。これまで2社間ファクタリングでは債権譲渡の事実が売掛先に知られることはありませんでした。しかし、第3項が追加されたことにより、債権譲渡禁止特約がある売掛債権に限り、通知無しのファクタリングはできなくなった(譲渡先への債権の支払いを拒否できる)のです。
これには理由があり、売掛先の経理上の処理について売掛元が変わることで混乱してしまうことと、債権を買い取る側であるファクタリング業者が、反社会的勢力だった場合の対抗措置として追記されたと推測されています。第3項に対する例外措置もあります。それが第4項です。
第4項の内容は債権譲渡禁止特約があっても支払い期限を超えてしまった場合は、売掛元から売掛先へ催促がされ、それでも支払いがされなかった場合には譲渡先(ファクタリング会社)から直接売掛先に支払いを求めることが可能になりました。
債権法改正がファクタリング業界に与える影響とは?
債権法改正がファクタリング業界に与える影響はかなり大きいです。まず、これまでは企業間、個人事業主間での利用が主流だったファクタリング取引が、あらゆる債権で可能になります。
最近では、給料ファクタリングやクレジットカード売上のファクタリングなども増えてきており、ファクタリング業界全体が債権法改正によって大きく変動し始めているのです。
禁止特約付きでも買取可能になる
従来のファクタリング業者にとって、売掛債権の買取禁止特約は、ファクタリング取引のブレーキになっていました。これが法改正により、通知さえ行なえば買取が可能になったのです。ファクタリング利用者はより売掛債権を資金化しやすくなり、ファクタリング業者も通知不要というグレーゾーンでの後ろめたい取引をする必要が無くなるのです。
ファクタリング業界全体に自由度が増す
譲渡禁止特約がある売掛債権は、何も企業間取引に限ったことではありません。個人対企業(ここでいう個人は個人事業主ではなく1個人という意味です)間のファクタリングも可能にしました。
最近多くなってきたのが、給料ファクタリングです。給料は、労働の対価によって給料日に支払われる報酬です。日払いの場合は債権になりませんが、月払いや週払いの場合は、報酬そのものが会社との契約によって債権という扱いになります。
この給料もファクタリングによって現金化が可能になるのです。ただしファクタリング業界的には給料ファクタリングに参入している業者はまだまだ少ないです。理由は「貸金業法に接触する可能性がある」と考えているためと言われています。そのため今後この辺りがどうなるのかはファクタリング業界の注目ポイントと言えるでしょう。
自由度が増すと悪徳業者が増える?
ファクタリング取引に自由度が増すことは、決して良いことばかりではありません。法の抜け道を使って悪質なファクタリング取引や詐欺ファクタリングをする業者も増えてきます。
自由=悪巧みしやすくなる
法律によってファクタリングに自由度が増すと、悪巧みをしやすい環境を作ってしまいます。ただでさえ、ファクタリング契約は法整備が完璧ではありません。手数料や掛目、事務手数料などはファクタリング業者が自由に設定できるのです。
このような法の未整備は、悪巧みをする輩を生み出してしまいます。法改正前も、ファクタリングと称して高額な手数料を搾取したり、譲渡通知不要を餌にして脅迫まがいの取引を行なったりするなど真っ当に営業しているファクタリング業者にも、資金が必要な企業にも迷惑な行為が横行していました。
債権法の改正は、ファクタリングの敷居を下げるという意味では、とても影響力が大きい改正です。それと同時に悪質な業者の横行を許してしまう土壌さえも作ってしまうのです。
一刻も早い法整備だけが対策ではない
悪質な業者に対抗するためには、債権法に関する法律の制定だけでは不十分です。実際に手数料上限などの詳細が定められている法律に関しては、未だ未整備のままです。法律の制定を待つだけでは、悪質な業者の横行は止められません。
利用する側の知識向上や意識向上も必要になってくるのです。ファクタリング業者や利用者、売掛先それぞれが、ファクタリングに関する情報をもっと知らなければなりません。今後のファクタリング取引は法整備だけでは一時的なブームで終わってしまうのです。
参照 優良ファクタリング業者の見分け方 悪徳業者を見分ける3つのポイント
債権法の改正だけでは不十分!法整備が今後の課題
債権法の改正とファクタリング業界の変動について解説してきました。債権法の改正だけでは現状のファクタリング業界には不十分です。手数料の上限値や下限値、必要な書類の有無など細かい部分まで定めてある法律の制定が必要になってくる可能性が高いです。
法整備はもちろんですが、利用者側もファクタリングに関する情報収集を怠らず、きちんとした業者選びをする必要があることを頭に入れてファクタリングを検討しましょう。