売掛債権を「売却する」ファクタリングと、売掛債権を「担保にして融資を受ける」ABL。
売却益と担保融資という最大の違いがあります。ファクタリングの方が将来的な負債になりません。しかし、ABLにはABLにしかないメリットがあります。
ファクタリング+ABL。2つの売掛債権系金策を使い分ければ、自社の利益効果を最大化させられるのです。そのためにはファクタリングとABLのメリットとデメリットを覚えておき、適切なタイミングで適切な金策を選択することが重要です。
ファクタリングとABLの選び方は自社与信力と資産力で決める
ファクタリングとABLは売掛債権を用いた資金調達方法です。どちらを選択すれば良いか迷ったときは
- 自社与信力
- 自社資産力
この2つを踏まえて選びましょう。
自社与信力
自社与信力とは、※全銀協や※CICのような信用情報機関に記録されている自社のクレジットなどの履歴のことです。どれぐらい融資を受けて遅延なく返済されたかといった内容が記録されています。ABLに限らず、法人格の与信情報は事業運営に重要です。
与信力が低ければ運営資金の調達は難航しますし、最悪の場合「倒産」する可能性もあります。売掛債権を「売る」のか「担保にしてお金を借りる」のかは、自社の与信力によって判断すべきです。
※全銀協…一般社団法人 全国銀行協会
※CIC…CREDIT INFORMATION CENTER(割賦販売法・貸金業法指定信用情報機関)
自社資産力
自社資産力の中でも、着目すべきはマイナス面です。資産力には運営資金などの他に「借金」も含まれます。今現在、他の金融機関から融資を受けている場合、売掛債権を担保にして融資を行ってしまうと返済が立ち行かなくなる可能性もあります。
短期的に金策が必要なのか、それとも中長期的に金策が必要なのかを把握してファクタリングもしくはABLを選択してください。
自社与信力と自社資産力の2つを踏まえて、ファクタリング向けな状況とABL向けな状況をケーススタディしてみましょう。
ファクタリング向けな状況
ファクタリングを選択すべき状況をケースごとに見ていきます。
つなぎ資金が必要な状況
ファクタリングの有用度が最も高いのは、納品から入金までの期間が長く、期間中に経費支払いが必要な状況です。中小企業の多くは「下請」や「孫請」での仕事がほとんどです。自社製品を直接収入などにできない場合、親会社に納品した売上、つまり売掛金が経費に充てられます。
しかし、入金日の前に経費支払いが発生する場合、自社の預金などを切り崩して支払わなくてはいけません。預金が無ければ債務超過となり「黒字倒産」する可能性もあります。
ABLは「融資」です。融資を受けるためには審査に合格した上で契約を結ぶなどの諸手続きが必要です。申込から入金まで数週間かかることもあります。ファクタリングは、売掛金の入金が確実であると証明できれば「申し込んだ当日」に資金化が可能です。
黒字倒産が間近に迫っている状況では、申込から資金化までのスピードが早いファクタリングの方が有利だということです。
自社与信力が低く、債権と取引先の与信力が高い状況
自社の与信力はCICや全銀協の他に「税金の滞納」などもチェックされます。総合的な自社与信力が低く、売掛先が大企業などで与信力が高い場合はファクタリングが有効です。
ABLはあくまでも融資ですから、申し込んだ企業の「審査」が行われます。審査の合否を決めるのは「与信力」です。総合的な与信力が低い場合はABLを利用できません。
ファクタリングは申し込んだ企業が「赤字経営」や「税金滞納」をしていても、売掛金が確実に入金されれば資金化が可能です。融資も受けられない状況の企業であれば、ファクタリング一択になります。
借金を増やしたくない状況
ファクタリングとABLの最大の違いは「借金か否か」です。過去に受けた融資を現在も返済しているならば、余計に借金を増やすABLよりもファクタリングの方が借金をせずに資金調達ができます。
借金で一番大変なのが、毎月の利息と支払いです。ファクタリングは、融資ではないため利息や分割返済が発生しません。入金の際は売掛債権総額から掛け目留保金を差し引いた金額が入金されます。売掛金が取引先から入金されたタイミングで、掛け目留保金から手数料を差し引いて返金されるため、毎月の支払いや利息が一切発生しないのです。
借金を増やしたくないならばファクタリング一択です。
ABL向けな状況
ABL向けの状況を見ていきましょう。
複数の取引先実績がある
複数企業と取引実績がある場合、ABL審査で有利に働く可能性が高くなります。長期的に資金繰りを改善させたいのであれば、一時しのぎのファクタリングではなく、ABLを選択した方が効果的です。
毎月の支払いが必要になりますが、計画的にムリのない返済を計画すれば、融資契約期間中に資金繰りを改善可能です。
融資審査をクリアできる与信力がある
与信力に問題が無ければ、ファクタリングよりもABLの方がトータルでプラス益になる可能性が高いです。ファクタリングの手数料は5%~30%と、取引方法やファクタリング会社によって幅があります。
対してABLの利率は3%程度がほとんど。ファクタリングの手数料で利益を減らすよりも、利益率が高くなるのです。金融機関から認められる与信力があるのならば、ABLの方が調達資金額は高くなります。
高額融資を受けたい
ファクタリングは、売掛債権総額を満額まで資金化できません。1,000万円の債権であっても掛け目80%、手数料10%であれば、800万円+αしか資金化できないのです。
ABLは全ての債権を担保化するため、複数債権を担保にして高額融資が受けられます。設備投資など、資金が必要なタイミングで大きな額を調達できるのがABLの強みです。
ファクタリングのメリットデメリット
シチュエーションでも触れた、基本的なファクタリングのメリットとデメリットをまとめていきます。
ファクタリングのメリット
申込から入金(調達完了)までのスピードが早い
つなぎ資金はスピードが命です。ファクタリングは申し込んでから入金までを最短即日で調達が可能です。
負債にならない
売却譲渡した分の金額になるため、借金にはなりません。毎月の融資返済で四苦八苦することが無いのです。
リスク譲渡ができる
売掛取引は取引先が破産すると、売掛金を入金してもらえないリスクがあります。ファクタリングはリスクごと売却譲渡できるので、売掛債権のリスクヘッジも可能です。
申込企業の審査は簡易的に行われるため審査通過率が高い
売掛債権と取引先の財務状況が重要視されます。申込企業が赤字経営や税金滞納であっても、利用可能です。
ファクタリングのデメリット
手数料が掛かる
ファクタリングの取引方法は主に2社間取引と3社間取引があります。2社間取引の手数料は10%~30%、3社間取引で5%~15%が相場です。ファクタリングの手数料は、貸金業法などの法律で上限が決められていません。ファクタリング会社によっては債権総額の30%以上が発生する場合もあります。
個人事業主は利用できない
ファクタリングは法人のみが利用できるサービスです。個人事業主が利用する場合は、取引先企業とファクタリング会社、自社を含めた3社間取引しか選択できません。その場合、最大のメリットである「資金化までのスピード」が無くなってしまいます。
取引先に債権譲渡を通知する必要がある
売掛取引には「債権譲渡禁止特約」が付いている場合があります。2020年4月1日から改正される民法466条「債権の譲渡性」では、この債権譲渡禁止特約を無効と明記しています。裏を返すと、これまでは2社間ファクタリングで債権譲渡通知が不必要だったことが、義務化されるということです。債権譲渡通知が取引先に通知されることで、ネガティブなイメージ(資金繰りや危ういなど)を与えてしまい、将来的な取引縮小に繋がる可能性もあるのです。
ABLのメリットデメリット
ABLのメリットやデメリットです。
ABLのメリット
利率が低い
融資金額や金融機関にもよりますが、3%や5%などファクタリングよりも安く資金調達が可能です。
利息の分割が可能
ファクタリングは一括での手数料払いが原則ですが、ABLでは利息を含めた分割返済ができます。売掛債権の何割かしか資金化できないファクタリングに比べて、必要な金額が調達できるのはABLのメリットです。
メガバンクや大手地銀などで手続きできる
ファクタリングもメガバンクなどが行っていますが、基本的には民間会社がほとんどです。対してABLは金融機関、特に銀行が多く行っています。売掛債権という自社資産を使うのですから、信頼できる機関と取引したいという場合はABLがオススメです。
債権以外も担保にできる
売掛債権以外の商品在庫や動産なども担保にできます。保有する資産が債権だけではないため、ABLで商品を担保にし、ファクタリングで債権を売却するという使い方もできます。
ABLのデメリット
担保の処分が実行された場合、倒産の可能性が高まる
担保範囲が広いのはメリットであると同時に、倒産のリスクも大きくなるということです。返済ができなければ担保処分が行われ、会社として立ち行かなくなってしまいます。
担保の状況を報告する義務がある
担保として提供した債権や商品などの在庫や進捗状況などを定期的に報告しなくてはいけません。報告用書類の作成など手間が掛かります。
審査次第では利用できない
利用する企業の財務状況や返済能力、与信力をチェックされます。自社の財務状況にマイナス点があれば審査落ちで利用できません。
金策は偏らないように選択肢を広げるべき
ファクタリングとABLは、どちらも「売掛債権」を用いた資金調達方法です。両方のメリットだけを見て、ファクタリング派やABL派とかたよった考えに凝り固まるのはオススメできません。経営者として金策手段は多く持っておくべきです。
リスク分散にもなりますし、現在の日本の経済状況を踏まえれば銀行一択、ノンバンク一択という状況では立ち行かなくなる可能性もあります。ファクタリングとABL、その他の金策を比較し、自社に合った資金調達方法を選択してください。